第12回 新しい憲法をつくる国民大会 昭和56年5月3日 名古屋で開催
今こそ改憲刷新へ
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野党の考えはワンパターン
昨年秋の臨時国会以降、現通常国会においても、憲法改正問題が急速に浮上してきましたことは、永年にわたり、自主憲法制定運動を続けてまいりました私どもにとって、歓迎すべきことではありましたが、反面、一般に与野党ともに、「憲法問題」についての研究不足から、議論が空転して国会の権威を低下せしめ、国民の判断を混乱せしめましたことは、誠に遺憾なことでありました。
とかく野党の諸君は、考え方がワンパターンで、つまり憲法改正というと、すぐ第9条改正─再軍備─徴兵制─軍国主義復活─戦争という図式しか、頭に浮かばないらしく、また、平和憲法といった抽象的な言葉のニュアンスに酔って、頭から憲法を改正すべきではないとして、改憲論議を封殺する傾向にあります。
しかし、日本が、戦時中のような軍国主義に走ったり、あるいは米・ソと並ぶ軍事大国化することなどあり得ないことは、良識ある国民のひとしく知るところであります。
現憲法のどこに欠陥があるか
問題は、昔の100年が、今の10年にも満たないと言われるほどに、時代の推移著しい現代において、世界各国が、憲法と現実とのギャップを埋めるべく、頻繁に憲法を修改正しているのに、この戦後35年、日本だけが憲法を修改正しないでいるため、社会のいたるところに、その弊害が露呈してきていることであります。
それには、第89条の教育への公金支出禁止規定をはじめ、第9条の戦争放棄条項など問題は無数にあり、これに対し、政府はこれまで「解釈で補う」東洋的便法で処理してきましたが、こうした便法も限界に達しており、政府自らそうした処理をすることは、却って国民に法を尊ぶ気持ちを失わせ、脱法行為を助長するなどの原因ともなっております。 さらに、現憲法が、第3章の各条項で、個人の権利をことさらに強調する反面、家族・他人・社会・国家に対する和合性・協調性・義務感を疎かにしているために、それが教科書をはじめ教育の場に反映して、国民の中には、恰も、自分の好き勝手な言動をなすのが権利であるかのように思い違いし自己中心的観念に陥った結果、毎日の報道に表れているような、冷酷殺人・誘拐、そして校内暴力など教育の荒廃を惹き起こしている現状であります。
与党は国民の期待を裏切るな
国民大衆も、日本民族の精神構造異変を想わせるこうした事件の続発から、近年漸く「何か基本的なものが誤っているのではないか。かかる異常事態を打開するには、現日本国憲法を見直し、改めて、民族の精神と時代の潮流に即した新憲法を制定し、時代と民心とを刷新する必要があるのではなかろうか」と考えるようになり、改憲の機運が再び出てまいりました。
また、特に最近は、1980年代に予想されるエネルギー不足や厳しい輸出規制などの国際経済状況、あるいはソ連軍のアフガン侵攻やわが北方領土への圧力、さらにはポーランド情勢など、緊迫化した国際軍事状況から、日本民族は、内外ともにその対応を迫られております。
さらに、また、若い人々も、近年、社会主義国家の経済・文化の実情が分かるにつれ、日本はやはり自由陣営の中で生きる方が好ましいと悟るようになり、昨年の衆参同時選挙では、そうした若い人の票が流入して、自民党を圧勝せしめたのであります。
しかし、ここで考えなければならないことは、昨年の選挙の大勝は、国民がただ無条件に自民党を支持したわけでは決してなく、国民大衆は、政府与党に対し、社会の摩擦・頽廃を是正すべく「精神作興・時代刷新」(いわば、世直し)を期待して、票を投じたということであります。
しかるに、もし、政府与党が、こうした国民の中に潜在する機運を見誤り、徒に事態を糊塗して腕を拱いているならば、期待を裏切られた国民は、次の選挙で政府自民党を敗北せしめる怖れなしとしません。
改憲刷新運動こそ急務である。
いま、わが国は、一般的な政治経済の課題はさておき、当面する国家的課題としては、憲法改正と北方領土返還の2つがあります。
現政府は、現在のところ、後者にのみ焦点を当てているようでありますが、前述のように、毎日のように報道される民族の精神構造異変を想わす以上事件の続発、さらには緊迫せる国際情勢を考えるとき、むずかしい交渉相手との北方領土返還運動にも増して、むしろ内を整備するための精神作興・時代刷新運動が、今こそ必要な時期に来ていると確信いたします。
憲法改正というと、前述の野党の諸君のワンパターンの考え方や一部の新聞の護憲キャンペーンに引きずられて、憲法改正を党是とする自民党の中にも、ためらう人がいるようですが、政治は、単に国民のコンセンサスを待つだけでなく、高い理想を掲げて国民のコンセンサスを醸成してゆくこともまた、大切な要素であり、そうした意味で、世界各国も国家の停滞期には、政府政党自ら憲法改正を主導するなどして、民心の一新を計るわけであります。以上の点からも同志の奮起をお願いしたい。