昨今憲法学者が関心を持っている事項・内容について。
及び参議院議員選挙結果。

高乗正臣先生

講話日:平成25年7月25日(木)

高乗正臣先生

平成国際大学副学長・同大学院教授、憲法学会理事長

講演要旨

 参議院選挙の結果は、自公で非改選含め135議席と、与党圧勝の結果に終わった。だが、改憲に必要な3分の2は162議席であり、維新・みんな・民主の一部などを加えなければそこには達しない。安倍政権は経済優先の方針で、消費増税などの課題も控えているので、憲法論議は秋以降となるだろう。改憲を中心課題とした政界再編に期待したい。
 続いて、5月31日付産経新聞の「金曜討論・憲法観」について、高乗先生と東京慈恵医科大の小沢教授の両論併記式記事について解説がありました。
憲法とはどのようなものか?については、
「国家権力を縛るというのが現代の潮流だ(小沢氏)」に対して、
「国民の権利・自由に対する国家権力の濫用を制限する機能はあるが、現代はそれでは足りない。福祉や災害対策等、国家権力への授権という側面を無視してはならない(高乗先生)」。
明文化されていないが国民に憲法遵守義務はあるか?については、
「国民にはない。ただし12条に自由や権利を保持する義務がある(小沢氏)」に対して、
「99条の憲法遵守規定は公務員を対象とする規定なので国民については明記されていないが、国民が憲法を制定したものであるから、当然国民が含まれると解される。また、99条は閣僚や国会議員に憲法改正に関する発言を禁止することを命じるものではない。この義務と改憲論議は別次元のもので、現行憲法の不備を指摘することは当然だ(高乗先生)」。
国柄規定を憲法に盛り込むことの是非については、
「道徳論は憲法に盛り込むべきではない(小沢氏)」に対して、
「それぞれの国家には歴史的に形成された固有の原理があり、権力分立の形も異なる。それを各国の憲法が明示するのは当たり前(高乗先生)」。
自衛隊は合憲か?については、
「昭和21年の吉田首相の国会答弁で、自衛戦争を否定している。現在の解釈で合憲とされているのは自衛隊創設の後で、憲法に合わせて自衛隊を将来廃止するのがよい(小沢氏)」に対して、
「解釈の限界を超え、明らかに違憲だ。矛盾を放置していては憲法の権威が傷つき、対外的にも一人前の国家として認められない。改憲の是非を堂々と国民に問うべきだ(高乗先生)」。
96条改正の是非については、
「憲法が国家権力を制限するものである以上、法律より高いハードルを課すのは当然。米国は上下院3分の2+州議会4分の3と日本より高い(小沢氏)」に対して、
「具体案を出すのはよいが、他の論点が後回しにされることに危惧を感ずる(高乗先生)」などの見解の違いについて解説された。
 次に、6月16日の安倍総理の発言「改正する条文ごとによって、発議要件を3分の2と2分の1に分けてはどうか」を受けて、「部分緩和論」について解説がありました。この発言は、公明党や民主党を取り込もうという意図があったとみられる。部分緩和を取っている国は、例えばスペインが挙げられる。スペイン憲法第168条には、全面改正案、あるいは権利・国柄に関する規定の改正案が提起された場合は、議会各院の3分の2の可決→両院の解散・総選挙→国民投票のプロセスを踏む、とある。それ以外の場合、各院の5分の3の可決→15日以内に、いずれかの院の10分の1の要求があった場合、国民投票となる規定があるが、我が国への導入は問題がある。
 次に、自民党内で議員立法化が検討されている「国家安全保障基本法案」について解説がありました。特色として、10条に国際連合憲章に定められた自衛権の行使が盛り込まれており、解釈が限界であるなら、法律化しようという意図のようだ。との解説でした。
 その後の意見交換も盛んでした。最後に、堀理事長より閉会挨拶があり、終了しました。

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